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Rui Nakamura
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最強色男、散る。①

金曜日、フライデーナイトのスタートは、ピロリと私、そして南米出身の実業家、カルロス氏と3人で、コンラッド・ホテルにあるイタリアン、ニコリーニズでのディナーから。

陽気でファンキーで、「南米男は女性を喜ばせるのが人生の使命」と豪語するカルロス氏とのディナーはすごく楽しい。美味しいフルコースを堪能し、ダブルのエスプレッソでシメる。

カルロス氏がトイレに行くそぶりをし、チェックを済ませてくれている間、私とピロリは急にコソコソ声で話し出す。

話の内容は──今日一日、二人をタイミング悪く同時に襲った、お互いのバッド・ラックについて。

二人とも、ここ数ヶ月の中では一番深刻な事態に陥っていて、お互いがお互いを心配しつつも、マトモに話を聞いてあげられない状態。

ピロリに起こったバッド・ラックについてはいずれ彼女が話すとして──、私の方はというと、珍しく上手くいっていると思われていた、ミスター・SHYとの間に、ちょっと致命的にもなりうる事件が生じていた。

彼は今日からロンドンにいて、しばらくしたらアジアにやってくる。そこで私と会う予定なのだが、それはどうなるのだろうか。

ついてない。誰が悪いわけでもない。でもまさか、こんなバッド・ラックなことが起こるなんて。

SHYとの関係を思いっきり神様に試されている気分。

今のところ、彼は涙が出るほど誠実に、この問題に向かい合ってくれているし、親友だからこそズバズバ言うピロリだって、彼は素晴らしく真摯な態度だから心配することはない、と太鼓判を押してくれた。

それでも、あと一週間かそこらで彼に会えると浮かれていた私にとって、これこそ正に、晴天の霹靂、寝耳に水、何の因果か、本当に勘弁してほしい。

それでも、カルロス氏がテーブルに戻ってくると、二人して笑顔で迎えて、楽しい話題にスイッチした。

ピンク色のヴーヴ・クリコで5度目の乾杯をしたとき、カルロス氏が言った。

「君たちは他の日本人と違って、乾杯のときちゃんと相手の目を見るね。素晴らしいよ。外国の言い伝えでは、乾杯のときに相手の目を見ないと、それから七年間のセックスが最悪だってあるんだから!」

そんなことを言われたら、意地でも相手の目を見てしまう。七年間は耐えられない。

ディナーの後、カルロス氏と別れ二人きりになった途端、またお互いのシビアな状況について話し出す。それでも、タクシーが向かっている先はKEEクラブ。全くいい気分じゃないのにそれでも、フライデーナイト、しかも今宵は二人お揃いのスカートでお洒落をしている。やっぱり見せにいかなくては!

今夜のKEEクラブは、ゲストのほとんどが欧米人。ブラック・タイのパーティがどこかであったらしく、タキシードやイブニングドレスの客も多い。

そんな華やかな客の中、ひたすらどんよりと暗い話題を続けるピロリと私。

今夜は何にも楽しくない。でも、家に一人でいるのはやっぱりきつい。

そんなとき、ふと目の前を通った客と目があった。

お洒落なジャケットに、細めの黒のネクタイ、少し長めの白髪交じりのヘアスタイルに、中々ハンサムな顔立ちをした紳士──、香港の外国人富豪ファミリーの中ではトップであるアムバノ財閥のミスター・バロンだ。

年齢は50歳前後、文字通り独身貴族、セクシーな容貌は私やピロリも「あれなら全然フックアップできる」と太鼓判を押している。

彼とは元々、同じくアムバノ一族出身の友人から紹介されていたので、話したことくらいはあった。あそこのファミリーとは何かと縁がある。特に一族の「おじ様」と呼んでいる紳士からは特に気に入られていて、色々よくしてもらっている。その「おじ様」の従兄にあたるのがバロン氏で、「おじ様」からは、

「バロンは本当のプレイボーイだから気をつけて」

と念を押されていた。

その「本当のプレイボーイ」バロン氏は、目が合うとすぐにテーブルに寄ってきて、挨拶を交わす。

そしてグラスを差し出すと、たった数時間前に聞いたばかりの言葉──「乾杯のときに目を見ないと、将来七年間のセックスが最悪なものになるんだよ」──とバロン氏が言い、思わずピロリと顔を見合わせ驚き、そして大笑い。

「本当にさっき、全く同じ言葉を聞いたの。南米出身の男性からね」

「南米?素晴らしいね。僕は来週からアルゼンチンに旅行に行くんだ、二週間くらい」

「ワオ、すごい偶然がいっぱい!いいな、楽しそう!」

「アルゼンチンでね、ポロをするんだ。ポロって分かる?乗馬をしながらボールを……」

「へーぇ。のんびりしてて楽しそうね」

「良かったら、君たちも一緒にいく?僕はブエノス・アイレスのど真ん中にベッドルームがたくさんある家を毎回借りるんだけど、たった一人では広すぎるからね。君たちを招待しようか?アルゼンチン中の男性が大喜びして集まるよ」

思わずピロリと顔を見合わせる。お互い、目がキラキラしている。

「本当?」

「本当だよ。最高に楽しいよ」

「私、スペイン語も少し話せるし」と、私がスペイン語で言うと、バロン氏も、

「それはいいね。僕もスパニッシュとフレンチ、それとイタリア語も話せるけど、スペイン語が一番マトモに話せるよ」と、スペイン語で言う。

「ちょっと待って。ドリンクをオーダーしてくるよ、君たちは?」

「モヒート」とピロリ。「ライチ・マティーニ」と私。

そしてバロン氏がテーブルを離れたあと、早速ガールズトークを開始する。

「ヤバイね、あれ、本気かな?」

「さぁ。でも招待くらいは出来るでしょ」

「いいねーあの人。かっこいい。いかにもプレイボーイで」

「だよねー。てゆうか、どれだけ落ち込んでても、やっぱりああゆう色男にそれなりにトリートされると、テンション上がっちゃうよねー。女だもんね」

「だよね。ちょっと元気になっちゃったよ」

単純である。でも、その単純さがまた自分たちでも気に入っているのだけど。

そしてドリンクをオーダーしてバロン氏が戻ってくると、誰かの手を引いている。人ごみに紛れて誰かは分からない──、その時、バロン氏から耳を疑うような言葉が出た。

「僕の親友を紹介するよ、ダニエルだ」

──えええええええ!?

ピロリも私も、ビックリしてそのバロン氏の後ろを注視する。

あああああ!!

二人が絶叫したと同時に振り返った男──、以前私がフックアップした、最強色男と異名をとる、ダニエルがそこにいたのだった。

「OH MY GOD」

ダニエルもゲラゲラ笑う私たちを見て、大笑いしながら寄ってきて頬にキスをする。

ダニエルとは過去に一度だけフックアップしたことがあったが、後にお互いにとって、色んな気まずい事情が発覚して以来、連絡は取っていない。時々このKEEクラブや他のパーティで顔を合わしては「意味深な」挨拶をするぐらいで、それ以上の関係は持たない。

それでも、ちょっと前、本当に数日くらい前も、セックスの話題をしていたときに、ダニエルの名前を出していた。

「ダニエルは本当にセクシー」と褒めちぎっていた。

それだけに今日こうして偶然ばったり会って本当に驚いたし、見た感じ、いつもベッタリくっついている彼の婚約者もいない。

「あんた、今日ダニエルとフックアップできるなら、やる?」

ピロリが日本語で聞いてきた。

「やるね、やっちゃうね。余裕でしょ」

ライチ・マティーニで結構酔ってきている私は、ハッキリそう言った。

相変わらずダニエルはかっこいい。ハリウッド俳優かと思うようなゴージャスな外見、それに加えて、びっくりするぐらいのスーパー・リッチガイである。果たして彼に不可能はあるのだろうか?多分、無い。それを分かっているからこそ、あの余裕のある態度が出来るんだろう。

ミスター・SHYのことで物凄く落ち込んでいた私には、今夜彼と再会したのは、何だか神様からの慰めのように、その瞬間は思えていた──。

to be continued

about 16 years ago 0 likes  0 comment  0 shares

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